ひきこもり
Hikikomori (Social Withdrawal)
ひきこもりとは
ひきこもりは、厚生労働省の定義では 「様々な要因の結果として社会的な参加(就学・就労・交遊など)を回避し、 原則的には6か月以上にわたって、概ね家庭にとどまり続けている状態」を指します。 ただし、ひきこもりは精神医学的な診断名ではなく状態概念であり、 背景には多様な精神疾患・心理的要因・社会的要因が存在します。
内閣府調査(2022年)では、ひきこもり状態にある人は全国で約146万人と推計されています。 青少年だけでなく、40〜64歳の中高年ひきこもりが61万人以上を占めており、 長期化・高齢化が深刻な社会課題となっています。
背景にある精神疾患
ひきこもりの方の多く(50〜80%)に何らかの精神疾患が背景にあるとされています。
- 社交不安症(SAD) :最多。他者からの評価への恐怖・恥の感覚から社会的場面を回避。 「外に出るのが怖い」「人の目が気になる」が主訴。
- うつ病・適応障害 :挫折体験(いじめ・受験失敗・就職失敗)後の無気力・引きこもり。 気力の回復とともに社会参加への意欲が戻る場合がある。
- ASD(自閉スペクトラム症) :社会的相互作用の困難・感覚過敏・暗黙のルールへの適応困難。 未診断のまま社会で傷つきを繰り返してひきこもる「二次障害」パターン。
- 統合失調症 :陰性症状(意欲低下・引きこもり)・社会恐怖・妄想による回避。 長期ひきこもりの中に未治療・未診断の統合失調症が含まれることがある。
- パーソナリティ障害 :回避性パーソナリティ障害・境界性パーソナリティ障害。 関係性の傷つきから社会参加を回避する。
- 「ひきこもりそのもの」(精神疾患が特定できないタイプ) :明確な診断基準を満たさないが、不安・自信のなさ・人間関係のつらさから 段階的に社会から退いていくケース。
8050問題
8050問題は、80代の親が50代の子のひきこもりを支えている家族の状況を指します。
- 長期ひきこもりの高齢化・親の介護問題・経済的困窮が同時に生じる
- 親の死後に子が孤立・孤立死するリスク
- 「恥ずかしい」「外に知られたくない」という親の隠蔽が支援を遠ざける
- 地域包括支援センター・生活困窮者自立支援制度・ひきこもり地域支援センター との連携が不可欠。家族への支援と本人への支援を並行して行う。
評価
- 本人の直接評価が困難な場合 :最初は家族からの情報収集が主となる。 ひきこもりの期間・きっかけ・現在の生活(睡眠・食事・昼夜逆転)・ 家族との関係・外出の有無・ネット使用の様子。
- 精神疾患の評価 :本人が受診できた場合、前述の背景疾患を系統的に評価。 ASD・ADHD・統合失調症が特に見逃されやすい。
- 自傷・暴力リスク :長期ひきこもりでは自傷・希死念慮のリスクが高い。 家族への暴力(対人暴力)が生じているケースにも注意。
支援の基本原則
- 焦らない・急かさない :「早く社会復帰してほしい」という家族・支援者の焦りが本人を追い詰める。 「今の状態を認める・否定しない」が信頼関係の基盤。
- 家族支援を先行させることが多い :本人が受診できない段階では、まず家族が相談に来ることが多い。 家族への心理教育(「無理に引き出そうとしない・批判しない・生活を共にする」)が 長期的な変化を生む。
- 段階的な社会参加 :引きこもり→家族との会話→家の中の活動→短時間の外出→ 居場所(ひきこもり支援グループ)→就労・就学。 段階をスキップしない。
- 居場所の提供 :「行っても何も求められない場所」の確保が最初の社会参加の一歩。 ひきこもり当事者会・地域の居場所カフェ・フリースペース。
アウトリーチ支援
本人が受診・来所できない場合、支援者が家庭や地域に出向く アウトリーチ(訪問支援)が有効なことがあります。
- 訪問支援は強制や説得ではなく「安心してもらう関係づくり」が目的
- ひきこもり地域支援センター・NPO・ACT(包括型地域生活支援)が担う
- 初回訪問では「診察・支援の押しつけ」をせず、存在を知ってもらうことが最初の目標
- 本人との信頼関係ができてから医療・就労・社会参加につなぐ
まとめ
- ひきこもりは診断名ではなく状態概念で、背景に社交不安症・うつ病・ASD・統合失調症などが多い。
- 8050問題は高齢化・長期化したひきこもりが生み出す複合的家族危機で、地域包括支援との連携が必要。
- 支援は「焦らない・急かさない」を基本とし、家族支援→本人との関係構築→段階的社会参加の順で進める。
- 本人が受診できない段階では家族相談を受け入れ、アウトリーチと居場所の提供が有効なアプローチ。