双極性障害

Bipolar Disorder

双極性障害とは

双極性障害(Bipolar Disorder)は、 気分が高揚・活動性が高まる躁(またはひどく過敏な)エピソードと、 抑うつエピソードを繰り返す慢性的な気分障害です。 生涯有病率は双極Ⅰ型が約1%、双極Ⅱ型が約1〜2%です。

双極性障害は「精神疾患の中で最も過少診断・誤診断されやすい疾患の一つ」です。 平均診断遅延は5〜10年とされており、 その間に「うつ病」として抗うつ薬単剤で治療され、 躁転・急速交代化・混合状態を誘発するケースが少なくありません。

双極Ⅰ型とⅡ型

  • 双極Ⅰ型障害 :少なくとも1回の完全な躁エピソード(入院・社会的機能の著しい障害・精神病症状を伴うことも)。 抑うつエピソードの存在は診断に必須ではないが、ほとんどの患者が経験する。
  • 双極Ⅱ型障害 :完全な躁エピソードはなく、軽躁エピソード(入院・精神病症状なし・ 機能障害が少ない)と抑うつエピソードを繰り返す。 重篤な機能障害はうつ状態中に生じることが多い。 双極Ⅰ型より「軽い」とは言えない。

躁エピソードの診断基準(DSM-5)

高揚または開放的または過敏な気分が異常かつ持続的に存在し、 目標志向性の活動や活力の増大が1週間以上持続(入院が必要な場合はより短くても可)。 その間に以下のうち3つ以上(気分が過敏な場合は4つ以上):

  • 自尊心の肥大または誇大
  • 睡眠欲求の減少(3時間でも十分に感じる)
  • 普段より多弁または話し続けるプレッシャー
  • 観念奔逸または思考が次々と湧いてくる主観的体験
  • 注意散漫
  • 目標志向性の活動の増加または精神運動性の焦燥
  • 無謀な活動への没頭(性的逸脱・浪費・危険な投資)

軽躁エピソードの特徴

軽躁は躁と同じ症状が4日以上持続するが、 社会的・職業的機能を著しく障害しない、入院不要、精神病症状なし。

軽躁は患者自身が「調子が良い」「本来の自分に戻った」と感じやすく、 自己報告では気づかれにくい点が診断を困難にします。 家族や周囲の人への問診(「睡眠時間が急に短くなったことはありますか?」)が有用です。

混合状態・急速交代型

  • 混合状態(Mixed Features) :躁・軽躁エピソード中にうつ症状が存在、またはうつエピソード中に躁症状が存在。 自殺リスクが最も高い病態の一つ。 エネルギーはあるが気分は落ち込んでいるという「動けるうつ」が危険。
  • 急速交代型(Rapid Cycling) :12か月間に4回以上の気分エピソード(躁・軽躁・うつ)。 抗うつ薬使用・甲状腺機能低下症・物質使用が誘因になることがある。 治療が難しく、リチウムやラモトリギンの有効性は限定的。

うつ病との鑑別

双極性障害のうつエピソードはうつ病と症状が類似しており、 躁・軽躁の病歴を見逃すと誤診される。

  • 過去の躁・軽躁エピソードの積極的な聴取 :「以前、逆に気分が非常に高揚し、眠れなくても元気で活動的な時期がありましたか?」 「浪費・衝動的な行動・性的逸脱をした時期はありますか?」
  • 双極性うつの臨床的特徴(参考) :早期発症・発症の急峻さ・過眠・過食・精神運動制止・ 仮性認知症的認知機能低下・精神病症状の合併。
  • 家族歴 :双極性障害・統合失調症の家族歴は双極性を示唆する。

治療

急性期

  • 躁エピソード :リチウム or バルプロ酸 + 必要に応じて非定型抗精神病薬(オランザピン・アリピプラゾールなど)。 激しい興奮にはベンゾジアゼピン短期追加。
  • 双極性うつエピソード :クエチアピン・ルラシドンが第一選択(抗うつ薬の単剤は躁転リスクがあり原則避ける)。 ラモトリギン・リチウムも選択肢。

維持療法(再発予防)

  • リチウム:躁・うつ再発予防・自殺リスク低減に最も強いエビデンス
  • バルプロ酸:躁再発予防
  • ラモトリギン:うつ再発予防に優れる
  • アリピプラゾール・クエチアピン:非定型抗精神病薬として再発予防効果

心理社会的介入

  • 心理教育 :疾患・薬・再発サイン・トリガーの理解。再発率低下のエビデンスあり。 再発サインカード(早期警戒徴候のリスト)の作成。
  • IPSRT(対人関係・社会リズム療法) :規則的な睡眠・食事・活動リズムの維持と、気分エピソードを誘発する対人関係問題への対処。
  • 家族焦点化療法(FFT) :家族全体への心理教育・コミュニケーション技能訓練・問題解決スキル。 再発予防効果のエビデンスあり。
  • CBT(双極性障害向け) :躁・うつのトリガー認識・行動調整・再発予防計画。
Medi Face Point: 「気分が高くて良い調子の時に薬を飲みたくない」というアドヒアランス問題は双極性障害に特有です。 「良い調子の時こそ薬が効いている証拠」という言葉が、 維持療法継続の動機づけに有効なことがあります。 また「再発サインを自分で記録するチャート」を患者と一緒に作成することが、 早期対処を促す実践的な予防ツールになります。

まとめ

  • 双極性障害は躁・軽躁・うつエピソードを繰り返す慢性気分障害。平均診断遅延5〜10年。
  • うつ病との鑑別には過去の躁・軽躁エピソードの積極的な聴取が不可欠。
  • 急性躁はリチウム・バルプロ酸+抗精神病薬。双極性うつはクエチアピン・ルラシドン優先。
  • 維持療法(リチウム・ラモトリギン)と心理教育・IPSRT・家族療法の組み合わせが再発予防の標準。