パニック症
Panic Disorder
パニック症とは
パニック症(Panic Disorder)は、 予期しないパニック発作が反復し、 「また発作が起きるのではないか」という予期不安と 発作を恐れての回避行動が持続する不安症です。
生涯有病率は約3〜5%。女性は男性の2倍。 20〜30代での発症が多く、「突然死の恐怖」「心臓発作と思って救急搬送」という形で 初めて医療機関を受診するケースが多い。 内科・循環器科で器質的疾患が除外されてから精神科に紹介されることも多い。
パニック発作の13症状
パニック発作(Panic Attack)は強烈な恐怖・強い不快感の突然の高まりで、 数分以内にピークに達し、以下13症状のうち4つ以上が出現します。
- ①動悸・心悸亢進・心拍数増加
- ②発汗
- ③震え・ふるえ
- ④息切れ・息苦しさ
- ⑤窒息感
- ⑥胸痛・胸部不快感
- ⑦嘔気・腹部不快感
- ⑧めまい・ふらつき・気が遠くなる
- ⑨悪寒または熱感
- ⑩感覚異常(しびれ・ちくちく感)
- ⑪現実感の消失(離人感・現実のなさ)
- ⑫コントロールを失う・気が狂うという恐怖
- ⑬死の恐怖
パニック発作は突然に最大強度に達し、10〜20分でピークに達した後、 通常30〜60分以内に自然消退します。「死ぬかと思った」という体験として記憶されます。
パニック症のDSM-5診断基準
- 反復する予期しないパニック発作 :いつどこで起きるかわからない発作が繰り返す。
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発作の少なくとも1回の後に、1か月以上以下のうち一方または両方が続く
- 予期不安:さらなる発作または発作の結果(コントロール喪失・心臓発作・気が狂う)への持続的な懸念
- 発作に関連した有意な行動変化(回避行動)
- 物質・医学的疾患・他の精神疾患では説明されない
広場恐怖症との関係
広場恐怖症(Agoraphobia)は、 パニック発作様症状が起きた場合に逃げられない・助けが得られないと感じる状況への 著しい恐怖と回避を特徴とします。
DSM-5ではパニック症と広場恐怖症は独立した診断であり、 両方の基準を同時に満たすこともあります。 広場恐怖の典型的な回避場面:公共交通機関・開けた空間・閉鎖空間・人混み・一人での外出。 重症化すると自宅から出られなくなる(家の中だけが「安全場所」)。
認知モデル
Clarkのパニックの認知モデルは治療の理論的基盤です:
身体感覚(動悸・息苦しさ)→破局的解釈(「これは心臓発作だ」「死ぬかもしれない」)→ 不安の増大→身体感覚の増強→破局的解釈の確信→パニック発作のピーク
CBTはこの身体感覚の誤った解釈(破局的認知)を修正することを標的とします。
鑑別診断
- 身体疾患 :心臓疾患(不整脈・狭心症)・甲状腺機能亢進症・低血糖・褐色細胞腫・ てんかん(側頭葉発作)・前庭障害。 初診時の心電図・甲状腺機能・血糖などの身体評価が必須。
- 物質誘発性不安 :カフェイン・覚醒剤・コカイン・大麻・アルコール離脱。
- 社交不安症 :社会的場面でのみパニック発作を経験する。パニック症は場所を問わず発作が起きる。
- 全般性不安症(GAD) :パニックより広範な持続的不安・心配が主体。
治療
パニック症の治療はSSRI+CBT(認知再構成+曝露)の組み合わせが最も推奨されます。
- SSRI/SNRI :パロキセチン・セルトラリン・エスシタロプラム・ベンラファキシンが推奨。 開始初期にJitteriness(不安増悪)が起こりやすく、低用量から開始し2〜4週かけて増量。 効果発現まで4〜6週。十分な効果には12〜16週の維持が必要。
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パニック症のCBT
- 心理教育:パニックのメカニズム・「死なない・気が狂わない」という事実を理解する
- 認知再構成:「動悸=心臓発作」という破局的解釈を根拠に基づいて修正する
- 内受容感覚曝露(Interoceptive Exposure):意図的に動悸・過呼吸・めまいを誘発し(回転・過呼吸・階段)、これらの感覚への恐怖を習慣化させる
- 状況曝露:回避している場所(電車・スーパー)への段階的曝露
- 呼吸コントロール訓練:過呼吸の予防・緊急時の対処法(腹式呼吸)
- ベンゾジアゼピン :急性発作の頓用として短期使用。 SSRI効果発現前の「橋渡し」として限定的使用。 長期使用は依存・治療効果の減弱・CBTへの阻害効果(不安をすぐ止めることで習慣化を妨げる)があり推奨されない。
まとめ
- パニック症は予期しないパニック発作の反復と、発作への予期不安・回避行動を特徴とする。
- 発作は身体感覚の破局的解釈(「死ぬかも」)と自律神経反応の悪循環で増幅される。
- 治療はSSRI+CBT(認知再構成+内受容感覚曝露+状況曝露)の組み合わせが第一選択。
- ベンゾジアゼピンの長期使用は避け、CBTによる恐怖の習慣化が根本的な改善につながる。