身体症状症・機能性神経症状症

Somatic Symptom Disorder / Functional Neurological Symptom Disorder

身体症状症とは

身体症状症(Somatic Symptom Disorder:SSD)は、 苦痛を与えるまたは日常生活に著しい支障をきたす身体症状があり、 その症状に関連して過剰な思考・感情・行動が存在する疾患です。

DSM-5で大きく概念が変わりました。従来の「身体表現性障害(Somatization Disorder)」では 「医学的に説明できない症状」が診断の中心でしたが、 DSM-5では「身体症状が実際に存在すること」+「それに対する過剰な認知・感情・行動」 という心理的要素が診断の中心となりました。 つまり、たとえ器質的疾患があっても身体症状症の診断がつく可能性があります。

プライマリケアでの有病率は約5〜7%。女性がやや多い。 慢性疼痛・疲労・消化器症状などとして内科・神経科・整形外科を繰り返し受診するケースが多い。

DSM-5の分類

  • 身体症状症(Somatic Symptom Disorder) :A. 苦痛または機能障害をもたらす1つ以上の身体症状。 B. 症状に関連した過剰な思考・感情・行動:①症状の深刻さへの不釣り合いな持続的思考、 ②症状・健康への高い不安レベル、③これらの症状・健康への過剰な時間・エネルギーの費やし。 C. 6か月以上持続。 疼痛が主体の場合は「疼痛が顕著な特徴を持つ」と特定する。
  • 病気不安症(Illness Anxiety Disorder) :重篤な疾患にかかっているという著しい不安。 身体症状は軽微または存在しない(健康不安が主体)。 頻繁に医療受診するタイプと、受診を回避するタイプがある。 旧診断の「心気症」に相当するが、身体症状の有無で身体症状症と区別される。
  • 機能性神経症状症(Functional Neurological Symptom Disorder) :旧称「転換症(Conversion Disorder)」。次のセクションで詳述。
  • 心理的要因が影響している他の医学的疾患(PFAMC) :器質的疾患の経過に心理的・行動的要因が悪影響を及ぼしている。
  • 作為症(Factitious Disorder) :意図的に症状を偽装・誘発する。外部の利益なし(詐病との違い)。 代理性作為症(親が子どもの症状を偽装)は虐待として対処が必要。

機能性神経症状症(転換症)

機能性神経症状症(FND: Functional Neurological Symptom Disorder)は、 神経学的疾患では説明できない運動・感覚症状を特徴とし、 臨床的特徴(陽性神経所見)によって積極的に診断されます。

  • 症状の種類
    • 運動症状:脱力・麻痺・歩行障害・不随意運動(機能性振戦・機能性ジストニア)
    • 発作症状:機能性発作(解離性発作・非てんかん性発作:PNES)—見た目はてんかん発作に類似
    • 感覚症状:しびれ・麻痺・失明・失声(機能性失声)
    • 認知症状:機能性認知障害(注意・記憶の障害)
  • 陽性診断の根拠(Hooverサイン等) :①Hooverサイン:機能性下肢脱力では随意的な伸展は弱いが、 対側股関節屈曲時の反射的伸展は保たれる。 ②トレモルに注意分散(finger-tapping中)で振戦が減弱・消失する。 ③歩行障害が特定の注意分散で正常化する。 神経内科的に「説明できない」ではなく「積極的所見で確認する」ことがDSM-5の転換点。
  • トラウマとの関係 :DSM-5ではトラウマや心理的ストレスとの関連は診断基準から外されましたが、 臨床的には半数以上にトラウマ歴や心理的ストレスが確認されます。 無関係とは言えないが、「心身症」というラベルが患者に与えるスティグマへの配慮が背景にあります。
  • 線維筋痛症(Fibromyalgia) :広範な慢性疼痛・疲労・睡眠障害・認知障害。 身体症状症の「疼痛が顕著」な形態と重複する。 中枢感作(Central Sensitization)が病態に関与。
  • 過敏性腸症候群(IBS) :慢性腹痛・排便習慣の変化。脳腸相関・心理的要因が強く関与。 ストレス・不安との密接な関係が示されている。
  • 慢性疲労症候群(ME/CFS) :6か月以上の説明のつかない疲労。労作後に症状が増悪(PEM:労作後倦怠感)。 神経免疫学的要因も示唆されており、単純な心身症とは区別する見方もある。

鑑別診断

  • 器質的神経疾患(MS・てんかん・重症筋無力症など) :最も重要な鑑別。FNDの診断は「除外」ではなく「陽性所見による確認」。 MRI・EEG・EMG・血液検査で器質性疾患を除外しつつ、陽性神経所見で積極的に診断。
  • うつ病・不安症 :身体症状(疲労・頭痛・筋緊張)をうつ病・不安症の一部として呈することがある。 気分・不安症状が主体かどうかで鑑別。合併することも多い。
  • 詐病(Malingering) :外部の利益(障害年金・刑事責任回避)目的で意図的に症状を偽装。 身体症状症は意図的な偽装ではなく、患者は本当に苦しんでいる。
  • 統合失調症・解離症 :解離性発作・偽てんかん発作はFNDと重複することがある。 解離の程度・トラウマ歴・アイデンティティ障害の有無で鑑別。

治療

身体症状症・FNDの治療は多職種連携(精神科・神経内科・リハビリテーション・心理士) アプローチが最も効果的です。

  • 診断の伝え方(説明) :「検査で異常がないので心の問題です」という説明は患者を傷つけ治療を妨げます。 「あなたの脳と神経システムは正常な構造を持っていますが、 機能の仕方に問題が生じています。これは本物の症状であり、 適切な治療で改善できます」という積極的で希望ある説明が推奨されます。
  • CBT(認知行動療法) :症状への過剰な注意・破局的解釈・回避行動を修正する。 身体症状症・病気不安症の第一選択として有効性のエビデンスが最も豊富。 「症状がある→破局的思考→不安→症状の増悪」の悪循環を断ち切ることが目標。
  • 身体志向療法・リハビリテーション :FNDには神経学的リハビリテーションが有効。 特にPNES(機能性発作)では発作のトリガー特定・グラウンディング技術・ 発作への行動的対応の習得が中心。 理学療法では「正常な動きの再学習」を目的とした段階的活動増加。
  • 薬物療法 :合併するうつ病・不安症・慢性疼痛にはSSRI・SNRI・三環系抗うつ薬(疼痛)。 症状そのものへの直接的な薬物療法は限られる。 睡眠障害・疼痛への補助として使用。
  • 心理教育 :「心身の相互作用」「中枢感作」「脳の誤警報」という概念を用いた説明が、 患者の自己理解と治療への参加を促進します。 「気のせいではない」「本物の苦しみ」という正常化がまず必要。
  • トラウマへの対応 :トラウマ歴がある場合はフェーズ基盤トラウマ治療を並行または優先的に実施。 安定化なしにトラウマ処理を急がないことが重要。
Medi Face Point: 「検査で異常がない」と言われ続けてきた患者に最も傷ついたと感じさせるのは、 「心の問題です」「気のせいです」という説明です。 FNDや身体症状症の患者は「本物の症状を持つ人」であり、 「診断が正式についた」こと自体が、数年の放浪に終止符を打つ治療的体験になります。 積極的診断と希望ある説明が、治療同盟の第一歩です。

まとめ

  • 身体症状症はDSM-5で「医学的に説明できない」ではなく「症状への過剰な認知・感情・行動」が診断の中核に変わった。
  • 機能性神経症状症(転換症)は器質的疾患の除外ではなく陽性所見(Hooverサインなど)による積極的診断が推奨される。
  • 治療は多職種連携でCBT・身体志向療法・心理教育・トラウマへの対応を組み合わせる。
  • 「本物の症状を持つ人」として正当化・正常化する説明が治療同盟の出発点。