チック症・トゥレット症候群
Tic Disorders and Tourette's Syndrome
チック症とは
チック(Tic)とは、突発的・反復的・非律動的な運動または発声で、 本人の意図とは無関係に起こる不随意運動です。 「しようと思ってするのではないが、完全に止められるわけでもない」 という半随意的な性質を持ちます。
多くの子どもが一過性のチック症を経験しますが、 1年以上持続する場合や複数のチックが組み合わさる場合は チック症(Tic Disorder)として診断されます。 有病率は学齢期小児の3〜8%。男女比は約3〜4:1(男性に多い)。
チックの種類
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運動チック
- 単純運動チック:まばたき・鼻のしわ寄せ・肩すくめ・頭の急激な動き
- 複雑運動チック:顔を触る・ジャンプ・くるくる回る・他者の動作を繰り返す(反響動作)
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音声チック
- 単純音声チック:咳払い・鼻をすする・うなり・ん、という音
- 複雑音声チック:単語・フレーズを発する・反響言語・汚言症(コプロラリア;社会的に不適切な言葉を叫ぶ)
前駆衝動(Premonitory Urge):チックが起きる直前に、 「チックをしないといけない」という不快な感覚・緊張感があることが多い。 チックをすることでこの緊張が一時的に緩和される。 この特徴が行動療法の標的になる。
DSM-5分類
- 一時的チック症(Provisional Tic Disorder) :単純または複合のチックが1年未満。学齢期の子どもの多くがこれに該当し、 自然消退することが多い。
- 持続性(慢性)運動または音声チック症 :運動チックまたは音声チックの一方が1年以上持続。 両方(運動と音声)が同時に存在しない。
- トゥレット症(Tourette's Disorder) :運動チックと音声チックの両方が1年以上にわたって存在する。
トゥレット症候群
トゥレット症(Tourette's Syndrome)は最も重篤なチック症で、 有病率は学齢期の0.6〜1%。症状は6〜7歳頃に始まり、 10〜12歳頃にピークを迎え、成人になると多くの症例で改善します。
汚言症(コプロラリア;不適切な言葉を突然叫ぶ)は映画・メディアでの表現から 「トゥレットの代名詞」のように思われていますが、 実際にはトゥレット患者の10〜30%のみに見られる症状で、必須ではありません。
合併症
チック症・トゥレット症では合併症が非常に多く、 多くの場合合併症の方がチック自体より生活に支障をきたすことがあります。
- ADHD:50〜60%に合併。不注意・衝動性が学習・社会機能を障害する
- 強迫症(OCD):30〜40%に合併。「ちょうどよい感覚(Just Right Phenomenon)」への固執
- 不安症:30〜50%
- 気分障害:20〜30%。特に自己スティグマ・いじめ被害による反応性のうつ
- 感覚過敏・自傷行為:重症例での自傷(頭打ち・頸部への力)
治療
チック症の治療は重症度・生活への支障・本人の治療への意欲に応じて段階的に行います。 軽度の場合は心理教育と経過観察のみで十分なことがあります。
- 心理教育・スティグマ対策 :チックは意図的なものではないことを本人・家族・学校に伝える。 「我慢してください」という対応はストレスを高めチックを増悪させる。
- CBIT(包括的行動介入;Comprehensive Behavioral Intervention for Tics) :最も推奨されるエビデンスに基づいた行動療法。 ① 習慣逆転訓練(HRT):前駆衝動を意識し、チックと相容れない代替行動を行う → 例:首をカクッとするチックには「首に力を入れて下に引く」反応。 ② 機能分析:チックが増悪する状況・先行条件の同定と回避・修正。 効果はハロペリドールと同等とするRCTがある。
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薬物療法
- グアンファシン(インチュニブ):α2Aアドレナリン作動薬。チック+ADHD合併に第一選択。副作用が少ない。
- アリピプラゾール(エビリファイ):D2部分作動薬。中等度〜重度チックに有効。体重増加に注意。
- ハロペリドール・ピモジド:旧来使用されてきた薬。EPSリスクが高く現在は二次選択以降。
- クロナゼパム:不安合併チックへの補助的使用。
経過と予後
- 小学校中学年〜思春期にかけてチックが増悪し、10〜12歳頃がピーク
- 成人になると50〜70%が著明に改善または消失する
- 重症例や合併症が多い場合は成人期にも持続し、就労・対人関係に影響する
- チックよりも合併するADHD・OCDの影響が長期的なQOLにより大きく関与する
まとめ
- チック症は半随意的な運動・音声の反復で、学齢期に多く、多くは成人で改善する。
- トゥレット症は運動チック+音声チックの1年以上の持続。汚言症は少数にのみ見られる。
- ADHD・OCDとの合併が多く、合併症への対応が生活機能改善に重要。
- CBITが第一選択の行動療法。薬物療法はグアンファシン・アリピプラゾールが推奨される。