抗不安薬
Anxiolytic Medications
抗不安薬の概要
抗不安薬(Anxiolytics)は、不安・緊張・焦燥の軽減を目的として使用される薬物群です。 ベンゾジアゼピン系薬が長年主流でしたが、依存・乱用・認知機能への影響から、 現在の不安症(GAD・パニック症・社交不安症・PTSD)の第一選択は SSRI/SNRIであり、 ベンゾジアゼピン系は補助的・短期的な使用に限定されるようになっています。
ベンゾジアゼピン系薬
GABA-A受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用し、GABAの抑制効果を増強することで 鎮静・抗不安・筋弛緩・抗痙攣作用を発揮します。
- ジアゼパム(セルシン・ホリゾン) :長半減期(20〜100時間)。アルコール離脱・てんかん重積・筋弛緩に使用。 蓄積による過鎮静に注意。
- ロラゼパム(ワイパックス) :中等度半減期(10〜20時間)。肝代謝を経ず直接グルクロン酸抱合されるため 肝疾患・高齢者でも比較的安全。急性不安・パニック発作の頓用に使用。
- アルプラゾラム(コンスタン・ソラナックス) :中等度半減期。パニック症・全般性不安症に使用。依存形成リスクが高い。
- クロナゼパム(リボトリール) :長半減期。てんかん・パニック症に適応。強い抗痙攣作用。
- エチゾラム(デパス) :日本で非常に多用されるチエノジアゼピン(ベンゾジアゼピン類似)。 依存形成・乱用リスクが高く、2016年に向精神薬指定(麻薬・向精神薬の規制対象)。 長期漫然投与は避けるべき。
主な副作用:鎮静・眠気・認知機能低下・運動協調障害・転倒リスク(高齢者)・ 記憶障害(前向性健忘)・呼吸抑制(大量投与・オピオイド併用)・依存形成。
非ベンゾジアゼピン系・その他の抗不安薬
- タンドスピロン(セディール) :5-HT1A受容体部分作動薬。依存性がなく認知機能への影響も少ない。 効果発現まで1〜2週間かかるため、即効性はない。 GAD・不安症状の維持療法に使用。
- ヒドロキシジン(アタラックスP) :抗ヒスタミン作用による鎮静・抗不安。依存性なし。 急性不安の短期使用・ベンゾジアゼピン代替として使用されることがある。 QTc延長に注意。
- プレガバリン(リリカ) :Caチャネルα2δサブユニット結合薬。GAD・神経障害性疼痛・線維筋痛症に適応。 めまい・眠気・体重増加が副作用。乱用リスクあり(依存性薬物)。
不安症の第一選択:SSRI/SNRI
現在の国際的ガイドラインでは、GAD・パニック症・社交不安症・PTSD・OCDの 第一選択薬はSSRI/SNRIです。 即効性はないが依存形成がなく、長期使用でも安全性が高い。
- 効果発現まで2〜4週間かかることを患者に説明する
- 開始初期に一時的な不安増強(Jitteriness)が出ることがある
- ベンゾジアゼピン系は導入初期の「橋渡し(Bridge)」として短期併用し、SSRI効果発現後に漸減する
依存と離脱:ベンゾジアゼピンの適正使用
ベンゾジアゼピン系薬は身体依存・精神依存を形成します。 連続使用2〜4週間以上で依存形成が始まるとされています。
- 身体依存 :急な中断で離脱症状が出現。症状:不安増強・不眠・振戦・発汗・痙攣(重篤な場合)。 もともとの不安症状(反跳不安)と区別が難しい。
- 精神依存・乱用リスク :特に短半減期薬(アルプラゾラム・トリアゾラム・エチゾラムなど)で高い。 物質使用障害の既往がある患者への処方は特に慎重に。
- 高齢者への処方 :認知機能低下・転倒骨折リスクが著しく上昇。 Beers criteriaでもビア基準で「高齢者への使用を避けるべき薬」として筆頭に挙げられる。
- 長期漫然投与の問題 :日本は国際的に見てもベンゾジアゼピン系薬の長期漫然処方が多く、 2017年以降、多剤処方・長期処方への診療報酬制限が設けられている。
漸減・中止の方法
長期使用中のベンゾジアゼピン系薬の中止には計画的な漸減が必要です。
- 現在の薬をジアゼパムに等価換算して切り替える (ジアゼパムは半減期が長く、血中濃度変動が少ないため漸減に適している)
- 2〜4週ごとに10〜25%ずつ漸減する (Ashton Manualなどの漸減ガイドを参考に個別化)
- 症状が悪化した場合は漸減ペースを遅らせる
- 心理療法(CBT・マインドフルネス)を併用して不安への対処能力を高める
まとめ
- 不安症の第一選択薬はSSRI/SNRI。ベンゾジアゼピン系は短期補助的使用にとどめる。
- ベンゾジアゼピン系薬は依存・認知機能低下・転倒リスクがあり、長期漫然投与を避ける。
- 非ベンゾ系(タンドスピロン・プレガバリン)は依存リスクが低い選択肢。
- 長期使用中の中止は漸減が原則。CBTとの併用が成功率を高める。