身体の痛みを強く訴えるが検査で異常が見つからない(身体症状症)
Somatic Symptoms: Pain Without Organic Cause
「検査で異常なし」の身体症状とは
「頭が痛い」「お腹が痛い」「腰が痛い」——内科・整形外科・神経内科などで繰り返し検査を受けても 「異常なし」と言われながら、症状が続く患者は少なくありません。 「気のせい」「精神的なもの」と片づけると患者との信頼関係が損なわれるため、 症状は本物であるという立場から丁寧に評価することが重要です。
こうした病態は身体症状症・機能性身体症候群・うつ病・不安症など、 複数の枠組みで捉えられます。精神科・心療内科と内科が連携して診るアプローチが有効です。
身体症状症(DSM-5)の診断
DSM-5の身体症状症(Somatic Symptom Disorder)は以下の3基準で定義されます。
- A:苦痛または日常生活の障害をもたらす身体症状が1つ以上ある
-
B:身体症状・健康に関する過度な思考・感情・行動のうち少なくとも1つ
- 症状の深刻さに関する不釣り合いで持続的な思考
- 健康や症状についての持続的な高い不安
- これらの症状や健康懸念に費やす過度の時間とエネルギー
- C:症状が持続的に存在する(一般的に6か月以上)
従来の「身体化障害」「疼痛性障害」を統合した概念で、 「器質的異常がない」ことを診断要件としない点が重要です。 器質的疾患があっても、それに対する反応が過剰で機能障害をきたすなら本診断に該当しうる。
鑑別診断
- うつ病 :身体症状(頭重・倦怠感・消化器症状・腰背部痛など)はうつ病の非常に一般的な訴え。 抑うつ気分・アンヘドニア・睡眠障害・集中困難を伴う。 日本では「仮面うつ病」(身体症状が前景でうつ気分が目立たない)として現れることも。
- 不安症(全般性不安症) :心配・緊張・筋肉の緊張・頭痛・消化器症状などが慢性的に続く。 身体症状に対する健康不安(病気不安症)も。
- 線維筋痛症・慢性疼痛症候群 :全身の広範な疼痛・疲労・睡眠障害。心理社会的因子が関与。 内科的治療と精神科的介入の両方が必要。
- 変換症(機能性神経症状症) :麻痺・けいれん・失声・失立など、神経学的疾患を思わせる症状が器質的異常なく出現。 ストレス因との関連が多い。
- 器質性疾患の見落とし :全身性炎症疾患・悪性腫瘍・多発性硬化症・バセドウ病などが初期に「異常なし」と評価されることがある。 経過観察と再評価を忘れない。
診察・問診のポイント
- 症状を否定しない:「検査で異常なし」をすぐに「問題ない」と伝えると信頼を損なう。 「検査では特定の病気は見つかりませんでしたが、症状は本当につらいですよね」と共感から始める。
- 症状の時間的・文脈的変化:「どんな時に症状が悪化しますか?仕事・人間関係のストレスと関係がありますか?」
- 気分・睡眠・食欲の確認:うつ病・不安症の合併を評価する。
- 症状への解釈・信念:「この症状は何が原因だと思いますか?」 身体症状症では過剰な疾患解釈(「癌かもしれない」)が維持因子になる。
- 過去の受診歴・検査歴:医療機関の渡り歩き(doctor shopping)の有無。 不必要な検査・手術による医原性合併症の予防も重要。
Medi Face Point:
「精神的なもの」という説明は多くの患者が否定的に受け取ります。
「脳と身体は密接につながっており、ストレスや感情が痛みのシグナルに影響することが科学的に示されています」
という説明が、心身医学的アプローチへの導入に有効です。
治療・対応の方向性
- 認知行動療法(CBT) :症状に関する過剰な解釈(「重篤な病気だ」)と過剰な安全確保行動(何度も検査を受ける)を変容させる。 身体症状症・健康不安症に高いエビデンス。
- 薬物療法 :合併するうつ病・不安症にはSSRI/SNRIが有効。 疼痛に対してはSNRI(デュロキセチン)・三環系抗うつ薬(低用量)・プレガバリンが使われる。
- 生活指導 :過剰な安静を避け、段階的に活動量を増やす(グレーデッドアクティビティ)。 規則的な睡眠・運動・対人活動が慢性疼痛に保護的。
- 多職種連携 :内科・整形外科・精神科・心療内科・ペインクリニック・理学療法士の協働。 「原因不明の痛みを診てくれる先生」として安心感を提供する。
受診・連携の目安
- 複数の診療科で検査を受けても原因が見つからず、症状が6か月以上続いている
- 症状への不安・心配が日常生活の大部分を占めている
- うつ症状・不眠・強い不安を同時に訴える
- 医療機関の渡り歩きが続き、患者自身も疲弊している
まとめ
- 「検査で異常なし」の身体症状は身体症状症・うつ病・不安症・機能性疾患など多くの背景がある。
- 症状の否定は禁物。共感的な態度から心身のつながりを説明する。
- 治療の核はCBT+薬物療法(SSRI/SNRI)+段階的活動増加。
- 内科と精神科の多職種連携が長期的な予後を改善する。