認知機能検査・神経心理学的検査
Cognitive and Neuropsychological Testing in Psychiatry
認知機能検査の意義
認知機能検査・神経心理学的検査は、記憶・注意・遂行機能・言語・視空間能力など 認知機能の各側面を定量的に評価するための検査群です。 精神科領域では以下の場面で重要な役割を担います。
- 認知症・軽度認知障害(MCI)の早期発見と鑑別
- 発達障害(ADHD・ASD・LD)の評価と合理的配慮の根拠
- うつ病・統合失調症における認知機能障害の評価
- 脳損傷(外傷・脳卒中)後の高次脳機能障害の評価
- 治療効果・経過観察の客観的指標
スクリーニング検査
- MMSE(Mini-Mental State Examination) :30点満点。5〜10分で施行可能な認知症スクリーニングのゴールドスタンダード。 23点以下で認知症の疑い(感度・特異度は中程度)。 教育年数・年齢による補正が必要。天井効果(軽度認知障害を見逃しやすい)に注意。
- MoCA(Montreal Cognitive Assessment) :30点満点。MMSEより感度が高く、MCIの検出に優れる。 視空間・実行機能・注意・言語・記憶を包括的に評価。 26点未満でMCIの可能性あり(教育年数補正が必要)。日本語版あり。
- HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール) :日本で最も広く使われる認知症スクリーニング。30点満点。 20点以下で認知症の疑い。言語性検査のため、聴覚障害・失語に注意。
- CDT(時計描画テスト) :視空間・遂行機能・概念化を評価。簡便で非言語的なスクリーニングとして補完的に使用。
包括的神経心理学的検査
- WAIS-IV(Wechsler Adult Intelligence Scale-IV) :成人(16〜90歳)の知的能力を包括的に評価。 言語理解・知覚推理・ワーキングメモリ・処理速度の4指標。 発達障害(ADHD・ASD)の特性プロファイルの評価に有用。 施行に約60〜90分を要する。
- WISC-V(児童用) :6〜16歳。学習障害・発達障害の診断支援・合理的配慮の根拠として学校・医療で使用。
- WMS-R(Wechsler Memory Scale-Revised) :言語性・視覚性記憶を詳細に評価。認知症・健忘症の鑑別に。
- RBANS(Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status) :記憶・注意・言語・視空間・遂行機能を30〜45分で評価。繰り返し施行に適している。
認知機能ドメインと対応する検査
神経心理学的検査は、以下の認知機能ドメインを評価します。
- 注意・集中力 :数唱(WAIS)・Trail Making Test(TMT)・PASAT(聴覚系列加算検査)
- 遂行機能(前頭葉機能) :TMT-B・FAB(Frontal Assessment Battery)・ウィスコンシンカード分類テスト(WCST)
- 記憶(エピソード記憶) :レイ聴覚言語学習テスト(RAVLT)・WMS-R・三宅式記銘力テスト
- 言語機能 :語想起(動物・野菜の流暢性)・ボストン命名テスト・WAB
- 視空間能力 :レイ複雑図形(ROCF)・コース立方体テスト
- 処理速度 :符号(WAIS)・TMT-A・連続反応時間課題
臨床での使い分け
- 認知症の疑い・初期評価 :MMSE/HDS-RまたはMoCA → スコアと症状の乖離があれば包括的検査(WAIS・WMS)へ
- 発達障害(ADHD・ASD)の評価 :WAIS-IV(認知特性プロファイル)+注意検査(CPT・TMT)+LD評価(読み書き・計算課題)
- 統合失調症・うつ病の認知機能評価 :RBANS・TMT・BACS(統合失調症の認知機能評価バッテリー)
- 高次脳機能障害 :FAB・ROCF・Stroop・N-back課題など、損傷部位・主症状に合わせた選択が必要
Medi Face Point:
認知機能検査のスコアは「数値」だけでなく、
どのドメインが低下しているか・どのように遂行したか(プロセス)が
臨床解釈の要です。特にWAISは指標スコアのプロファイルを読むことが診断支援の核心です。
まとめ
- 認知機能検査は認知症・MCI・発達障害・高次脳機能障害の評価に不可欠。
- スクリーニングはMMSE/HDS-R・MoCA。より詳細な評価にはWAIS・WMSなどを使用。
- 評価目的(スクリーニング/診断/治療効果)に合わせた検査の選択が重要。
- スコアはプロセスと文脈を合わせて解釈し、臨床所見と統合する。